続・映画の王様

映画ライターのブログです

『喝采』

ユージン・ターナー

『喝采』(2025.1.6.オンライン試写)



 ブロードウェーの第一線で活躍してきた大女優リリアン・ホール(ジェシカ・ラング)は、チェーホフの戯曲『桜の園』の主人公ラネーフスカヤを演じる舞台を間近に控えていたが、稽古中に突然セリフを忘れ、医師から認知症だと告げられる。


 人生の全てを舞台に捧げてきたリリアンは、病いを隠したまま舞台をやり遂げることを決意するが、病状は悪化の一途をたどり、やがて現実と妄想の境界さえも曖昧になっていく。


 伝説的な舞台女優マリアン・セルデスをモデルにして映画化。監督はマイケル・クリストファー。リリアンを支え続けるアシスタントのイーディスをキャシー・ベイツ、隣人の元芸術家をピアース・ブロスナン、リリアンの娘マーガレットをリリー・レーブがそれぞれ演じた。


 『キングコング』(76)のヒロイン役でのデビューから、後に演技派に転じたラングも76歳。ここでは同年代のベイツと共に鬼気迫る老境の演技を見せる。デビューからほぼリアルタイムで彼女の変身ぶりを見てきた身としては、時の流れを感じて感慨深いものがあった。


 決して暗く重いだけでは終わらないこの映画は、リリアン自身と演じる没落貴族のラネーフスカヤの姿が重って見えてくるところがユニークだ。


 最近では、『ファーザー』(20)のアンソニー・ホプキンスや『大いなる不在』(24)の藤竜也の演技が印象に残っているが、俳優にとってセリフが言えなくなるのは致命的なことだけに、この映画のラングも含めて、彼らは一体どんな気持ちでこういう役を演じているのだろうと思うが、演じ甲斐のある役というイメージなのだろうか。だとすれば、それこそが俳優の性(さが)を表していると言えないこともない。